アザミウマって何? of 塘研究室

アザミウマは体長が1~5mm程度の小さな昆虫で,主に花の中,草や木の葉の間,樹皮下や枯葉の中,土壌中などで生活しています。このような場所で生活しているため,私たち人間の目にはほとんど触れません。農作物に害を与える種類もいますが,それはごくごく一部です。



アザミウマの形態的特徴(その1)

08153626.JPG翅は前後翅ともに細長く,翅脈が退化して膜状になり,翅の周縁には多数の長い縁毛が生えているので翅が総状に見えます。この翅の様子がアザミウマの分類学的な名称「総翅類」の由来になっています。

アザミウマのそれぞれの肢の先端には,普通の昆虫の肢の先端にあるような鈎状の爪はなく,かわりに出し入れ自在の粘着性の胞嚢があります。このため,アザミウマはプラスチックやガラスのような表面がつるつるの面でも歩くことができます。

アザミウマの形態的特徴(その2)

08155001.JPGアザミウマの口はセミやカメムシと同様に吸収型で,この口を植物に突き刺して植物汁や破壊した組織などを吸い取って食べています。雌は増産力を高めるために花粉を食べたりしますし,菌類の胞子や菌糸だけを食べる仲間も多く見られます。中には他のアザミウマ,カイガラムシ,ダニなど,小さな動物を食べる捕食性種も知られています。

アザミウマの生活史

File0358.jpgアザミウマは生活史の上で蛹の時期をもたない不完全変態昆虫です。しかし,成虫になる前に摂食もしなければ,刺激を与えなければ動きもしない蛹のような時期があります。このようなことから,アザミウマを蛹の時期がある完全変態昆虫と,もたない不完全変態昆虫との中間に位置する昆虫と考える研究者もいます。

「アザミウマの蛹期」について、もっと詳しいことを知りたい方は、インセクタリゥム2000年5月号の『アザミウマ類 「蛹」の時期をもつ不完全変態昆虫』をお読み下さい。

アザミウマという名前の由来

20080923_アザミウマが採集されたアザミ.JPGアザミウマという和名の由来については,昔,子供たちがアザミの花を手のひらの上でたたき,「ウマデー,ウシデー,馬出よ!,牛出よ!」と歌いながら中から出てくる黒や黄色の虫の数を競ったという遊びからついたのだと言われています。実際,このアザミの花から出てくる黒や黄色の虫はアザミウマです。また,アザミウマの頭部を腹側から見ると細長く,何となく馬面に見えます。あるいは昆虫のことを方言として「ウマ」とか「ウシ」と呼ぶことは,日本各地から知られています。このようなことから「アザミのウマ」,つまり「アザミウマ」という名前になったのでしょう。

アザミウマの類縁関係

20080923_アメンボ04.JPGアザミウマの口の形態がセミやカメムシに似ていることは前でも少し触れましたが,それ以外にもセミやカメムシと似た特徴があります。このようなことから,アザミウマはセミやカメムシの仲間(半翅類)に近縁であると考えられています。

写真はアメンボ(半翅類)の仲間です。

アザミウマと人間との関わり

gall.jpeg多くのアザミウマは基本的には人間生活との関わりを持ちません。しかし近年になって,一部の吸汁性のアザミウマが野菜や花卉などの農業害虫として注目されるようになりました。ミナミキイロアザミウマThrips palmiやミカンキイロアザミウマFrankliniella occidentalisといった種類はもともと日本には分布していなかった南方系,北方系のアザミウマですが,現在は温室栽培の野菜や花卉の大害虫として,多くの被害が日本各地から報告されています。

ちなみに,農作物に甚大な害を与えるのは主にトスポウィルスというウィルスですが,いくつかのアザミウマがこのウィルスを伝播するベクターとなっています。それ以外に野菜や果実を加害して商品価値を低下させたり,葉に虫こぶを作って果実の生育に影響を与えたるする種も知られています。写真はカキクダアザミウマPonticulothrips diospyrosiがマメガキの葉を巻いて作った虫こぶ(gall)です。