モンカゲロウ of 塘研究室


日本産モンカゲロウ類は4種が知られており,沖縄以南に分布するタイワンモンカゲロウ以外の3種(モンカゲロウ,フタスジモンカゲロウ,トウヨウモンカゲロウ)は国内に広く分布します。

2010.05.02
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福島県のモンカゲロウ類の生活史(化性と羽化時期)

フタスジモンカゲロウは1年では成虫になれない?

原瀬川(二本松市)のモンカゲロウも1年では成虫になれない可能性が高い

モンカゲロウの生活史(主に化性)に興味をもつそもそものきっかけは,東城・安藤(1998)が長野県菅平高原の河川に生息するフタスジモンカゲロウは2年1化である可能性を指摘していることを知ったことです。寒冷地のモンカゲロウ類の化性が積算水温などの影響で変わるならば,高緯度地域である福島県の場合も同様になるのでは?と考え,中通り地方北部の摺上川と大学近くの水原川をフィールドに,フタスジモンカゲロウの生活史調査を開始しました。中通り地方だけでなく,浜通り地方の主要河川や会津地方の氷玉川でもフタスジモンカゲロウの生活史調査を行いましたが,いずれの場所でも2年1化であることが強く示唆されています。
モンカゲロウ類の生活史.jpg研究室でモンカゲロウ類の生活史調査が実施された河川・地域
一方,モンカゲロウは中通り地方の水原川,山ノ入川,会津地方の阿賀川で生活史を調査しましたが,いずれも西日本と同様に1年1化である可能性が示唆されました(どの河川でも羽化までに1年以上を要することを示唆する個体が記録されましたが,それらはごくわずかでした)。ところが,二本松市の原瀬川のモンカゲロウはほとんどが1年では成虫になることができない可能性が強く示唆されています。原因は積算水温の低さで,おそらく上流に設置されている岳ダムからの放水が原因であると思われます。

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トウヨウモンカゲロウは1年1化,成虫になるまでに1年を要する

トウヨウモンカゲロウはまとまった個体数を得ることが困難なため,生活史調査が実施できずにいました(レッドデータ種としている県もあります)。ところが,ひょんなことから,個体群密度の高い生息地が見つかり,生活史調査を実施することができました。詳細は以下に示しましたが,西日本(と言っても公刊されたデータがあるのは四国の1例のみ)の個体群とは異なり,1年1化である可能性が高いです。

このように,フタスジモンカゲロウ,トウヨウモンカゲロウは西日本とは化性が異なるようです。モンカゲロウも積算水温に依存して化性が変わる可能性が強く示唆されているので,もっと寒い?地域でモンカゲロウが生息している河川を探せば,羽化するまでに1年以上を要する個体群が確認されるものと思われます。

西日本ではモンカゲロウもフタスジモンカゲロウも基本的に1年1化,成虫になるまでに1年,トウヨウモンカゲロウは渡辺(1992)による四国・香川の調査事例しかありませんが,1年2化,との報告があります。トウヨウモンカゲロウは福島県内の止水域(曽原湖)で調査事例があり,2年1化とされています(横山・岩槻,1992[未発表?])。

黒石飛鳥(2002)福島県におけるモンカゲロウ属(昆虫綱:カゲロウ目)の生活史,
福島大学大学院教育学研究科平成13年度修士論文.
遠藤絢香(2007)福島県浜通り地方におけるフタスジモンカゲロウの生活史,
福島大学大学院教育学研究科平成18年度修士論文.
水川成美(2004)福島県二本松市原瀬川におけるモンカゲロウ属(昆虫綱:カゲロウ目)の生活史,
福島大学教育学部平成15年度卒業論文.
中村 慎(2006)福島県二本松市原瀬川におけるモンカゲロウ属(昆虫綱:カゲロウ目)の生活史 〜羽化期間と化性に関する再検討〜,
福島大学教育学部平成17年度卒業論文.
斎藤広行(2009)福島県会津地方におけるモンカゲロウ及びフタスジモンカゲロウの生活史 〜福島県中通り地方との比較〜,
福島大学共生システム理工学類平成20年度卒業論文.
斎藤広行・塘 忠顕(2009)福島県会津美里町(会津地方)におけるモンカゲロウ Ephemera strigata Eatonの生活史(カゲロウ目:モンカゲロウ科) ー福島県二本松市(中通り地方)における生活史との比較ー,
福島生物,(52): 21-35.

山ノ入川(二本松市)におけるモンカゲロウ類の生活史

山ノ入川には3種類のモンカゲロウ類が分布します

山ノ入ダム直下のトンネル内にはトウヨウモンカゲロウが

スライド2.jpgトウヨウモンカゲロウの生活史/青いラインはダム湖からの試験放水期間,黄色いラインは羽化期間を示している。山ノ入川は二本松市の山ノ入ダムから流出する河川です。この川には3種のモンカゲロウ類すべてが生息しており,その中の2種,モンカゲロウとトウヨウモンカゲロウは両種ともに高密度で生息しています。両種の生活史調査は2005年に尾形泰裕が精力的に調査しました。

山ノ入川に生息しているトウヨウモンカゲロウは,5月下旬から9月上旬までが羽化時期で,1年1化です。トンネル外に生息する幼虫は稀ですが,それらの中には羽化までに1年以上を要する個体が存在するようです。

トンネル内とトンネル外にはモンカゲロウが

スライド4.jpgモンカゲロウの生活史/青いラインはダム湖からの試験放水期間,黄色いラインは羽化期間を示している。山ノ入川に生息しているモンカゲロウは,5月中旬から6月下旬までが羽化時期で,1年1化です。トンネルの内外で成長速度に差があり,それは餌としてるデトリタスの差が原因である可能性が高いと思われます。トンネル外に生息する幼虫の中には羽化までに1年以上を要する個体も存在するようです。

山ノ入川にはフタスジモンカゲロウも分布しますが,幼虫の個体数は極めて少なく,稀に採集されるに過ぎません。

  • 尾形泰裕(2006)福島県二本松市山ノ入川におけるモンカゲロウとトウヨウモンカゲロウ(カゲロウ目:モンカゲロウ科)の生活史,
    • 福島大学教育学部平成18年度卒業論文.
  • 尾形泰裕・塘 忠顕(2008)福島県二本松市山ノ入川におけるモンカゲロウとトウヨウモンカゲロウの分布と生活史(カゲロウ目:モンカゲロウ科),
    • 福島生物,(51): 17-30.
スライド1.jpgトウヨウモンカゲロウ幼虫

トウヨウモンカゲロウは河川の下流域,湖などが主な生息地です、幼虫の腹部後半部背側に6本の細い筋(左右に3本ずつ)が見られることが特徴です。

スライド3.jpgモンカゲロウ幼虫

モンカゲロウは河川の中流域が主な生息地です。成虫は上空がオープンな場所を好みます。頭部の後方単眼間に黒紋が生じることが特徴です。

フタスジモンカゲロウ02.JPGフタスジモンカゲロウ幼虫

フタスジモンカゲロウは河川の上流域が主な生息地です。成虫は河川上空が樹木などに覆われていても気にしないようです。腹部後半部背側に3本の筋(正中線上に1本,左右に1本ずつ)が見られることが特徴です。

フタスジモンカゲロウ01.JPGフタスジモンカゲロウ雌成虫