2010.10.08 |
天然記念物・駒止湿原の昆虫相のデータをホームページにアップしました。
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2010.08.17 |
南会津町御蔵入交流館多目的ホールにて,緑と水の森林基金助成事業「天然記念物駒止湿原の昆虫・動物生息調査」の中間報告会が行われました。
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天然記念物・駒止湿原における昆虫相調査(21委庁財第4号の21)
駒止湿原・・・ 昭和村と南会津町にまたがる標高約1100mの低層〜高層湿原。約148haが国の天然記念物に指定されています[1970年に約105haが指定され,2000年に約43haが追加指定されました]
ブナ林に囲まれて点在する大小様々な湿原から,470種類以上の植物が記録されています。春から秋にかけて色とりどりの花を咲かせるミズバショウ,ワタスゲ,ニッコウキ スゲ,コバイケイソウなどの草本植物,ハクサンシャクナゲ,レンゲツツジ,ウラジロヨウ ラクなどの木本植物,そして新緑と紅葉を彩るブナ,シラカバ,オオカメノキ(ムシカリ) などの木本植物。植物については多くの調査報告や図鑑が発刊されています。ところが,動物相については,残念ながら詳細な調査報告がありません。
ミスジチョウそこで私たちは,1)駒止湿原が現在のような形になるまでの永い期間に,昆虫やそれ以外の動物たちがどのように関わってきたのか,2)現在の駒止湿原の生態系において,昆虫やそれ以外の動物たちがどのような役割を果たしているのか,について,現在の駒止湿原の昆虫と動物の生息状況を調査することによって,その一端を明らかにしたい考えました。そして,得られた基礎データと既知の植生や生物相に関する基礎データとを,駒止湿原及びその周辺の自然環境の総合的かつ永続的な保護・保全にも活用したいと考えています。
ヤマナラシハムシ調査は2009年11月から2010年11月までの1年間で,木道沿いのルッキング(採集,標本作製,同定)が基本です。ルート:南会津町側入口→大谷地→乾燥路→白樺谷地→水無谷地→白樺谷地→乾燥路→南会津町入口。南会津町側入口のブナ林,大谷地出口のブナ林,白樺谷地と水無谷地の間のブナ林,昭和村側入口の林などで,リター(土壌)を採取し,土壌動物の調査も実施しています。湿原内の止水域,流水域,湿原入口付近の止水域,流水域,乾燥路上の水たまり,乾燥路付近の止水域で,水生昆虫(底生動物)の調査も実施しています。「南会津の湿原を守る会」との共同調査であり,動物(昆虫以外の無脊椎動物,哺乳類,鳥類,爬虫類,両生類,魚類など)の生息状況把握も調査対象のため,林内に赤外線センサーカメラを設置し,野生動物の撮影を試みています。現地調査では南会津の湿原を守る会はもちろん,駒止湿原案内人の会,南会津町教育委員会,昭和村教育委員会にも大変お世話になっています。
絶滅危惧種,ヒメシジミは健在です!本種は九州では絶滅した可能性が高いとされています。県内でも阿武隈山地では減少傾向にあります。環境省版RL準絶滅危惧種,福島県版RDB注意種です。駒止湿原では,湿原内はもちろん,大谷地と白樺谷地の間の乾燥路にも分布します。雄の翅表は青,雌の翅表は黒。翅裏の外縁部に赤色斑が並ぶのが特徴です。特に白樺谷地に個体数が多いようです。出現時期は6〜7月で,雌はアザミ類の葉に産卵します。
本州未記録種であったAnaphothrips badius (Williams)が確認されました。これまで国内では北海道からしか記録されていません。海外ではヒマラヤ山脈以北のユーラシア大陸に広く分布します。
駒止湿原と言えば,知る人ぞ知る・・・コバネイナゴ(体長16~40mm)です!コバネイナゴは地理的な変異があり,体の大きさや翅型から6つの型に分けられます。(1)エゾイナゴ型:北海道の石狩平野とその周辺,小型で短翅,先端が尖る(2)コバネイナゴ型:最も一般的な型,全国(北海道〜九州)に分布,中・大型でしばしば長翅型が現れる。先端は尖らない(3)擬似チョウセンイナゴ型:本州,四国,九州の低地に分布,中型で中翅,先端は尖らない(4)山地型:本州,四国,九州の山地に分布,やや小型,中翅で先端が尖る(5)千葉型:千葉県の一部,小型で短翅(6)福島型:福島県の一部,非常に小型で短翅〜微翅。「福島型」とは駒止湿原の個体群のことです。駒止湿原における生息個体数は大変多く,確かに雄の中にはかなり小さな個体が見られます。
この他,サナエトンボとゲンゴロウの仲間に関する興味深い知見が得られました。バッタ類やシリアゲムシ類も調査していますが,詳細は後日・・・ということで。
駒止湿原でもニッコウキスゲに多数のキスゲフクレアブラムシが寄生していました。このアブラムシは,尾瀬や田代山山頂でも二次寄主のニッコウキスゲの朔果や蕾をアタックしています。ニッコウキスゲの繁殖や個体群維持に直接的な害は与えていないようですが,景観上の問題が・・・。春と秋は二次寄主であるニッコウキスゲではなく,別の一次寄主に寄生しているはずです。他の地域ではミツバウツギが一次寄主として知られているのですが,駒止湿原における本種の一次寄主が明らかになれば,そこで個体数を低下させることが可能かもしれません(天然記念物だけに,無理かもしれませんが・・・)。
アザミウマ相
- 穿孔亜目
- アザミウマ科
- デンドロアザミウマ亜科(1)
- Dendrothrips utari Kudo
- セリコアザミウマ亜科(1)
- Hydatothrips ponyaunpe Kudo
- アザミウマ亜科(12)
- Anaphothrips badius (Williams)本州初記録。これまで国内では北海道からしか記録されていない。
- Anaphothrips obscurus Müller
- Frankliniella intonsa (Trybom) ヒラズハナアザミウマ
- Megalurothrips distalis (Karny) マメハナアザミウマ
- Microcephalothrips abdominalis (Crawford) コスモスアザミウマ
- Stenchaetothrips biformis (Bagnall) イネアザミウマ
- Taeniothrips oreophilus Priesner アシグロハナアザミウマ
- Thrips alni Uzel
- Thrips brevicornis Priesner
- Thrips flavus Schrank キイロハナアザミウマ
- Thrips griseus
- Thrips typicus Masumoto
- 有管亜目
- クダアザミウマ科(4)
- Ecacanthothrips inarmatus Kurosawa トゲナシクダアザミウマ
- Haplothrips kurdjumovi Karny ハナクダアザミウマ
- Mesothrips sp.おそらく未記載種と思われる。虫こぶは作らず,キク科植物の花に集まる。
- Psalidothrips simplus Haga オチバクダアザミウマ
2010.10.08現在,18種類が記録されています。
チョウ相
- アゲハチョウ科
- カラスアゲハ類(種不明:カラスアゲハ or ミヤマカラスアゲハ)
- シロチョウ科
- スジグロシロチョウ類(種不明:スジグロシロチョウ or ヤマトスジグロシロチョウ)
- モンキチョウ
- シジミチョウ科
- ヒメシジミ
- タテハチョウ科
- ミスジチョウ
- ヒョウモンチョウ類(種不明:過去にウラギンヒョウモンが記録されています)
- ヤマキマダラヒカゲ
- クロヒカゲ
- セセリチョウ科
- コチャバネセセリ
- オオチャバネセセリ
- イチモンジセセリ
- コキマダラセセリ
- これら以外に文献記録として,アゲハチョウ,キアゲハ,ヒメキマダラセセリの分布が知られています。
2010.10.08現在,合わせて12種類が記録されました。
甲虫相(ハムシ・カミキリムシ)
- ハムシ科
- ネクイハムシ亜科
- スゲハムシ Plateumaris sericea (Linnaeus)
- クビボソハムシ亜科
- ルリクビボソハムシ Lema cirsicola Chûjô
- ナガツツハムシ亜科
- ヨツボシナガツツハムシ Clytra arida Weise
- ツツハムシ亜科
- セスジツツハムシ Cryptocephalus parvulus Müller
- ルリツツハムシ C. aeneoblitus Takizawa
- ホソハムシ亜科
- カバノキハムシ Syneta adamsi Baly
- ハムシ亜科
- ヤナギルリハムシ Plagiodera versicolora (Laicharting)
- ヒゲナガハムシ亜科
- ズグロアラメハムシ Lochmaea capreae (Linnaeus)
- キクビアオハムシ Agelasa nigriceps Motschulsky
- イタドリハムシ Gallerucida bifasciata Motschulsky
- ノミハムシ亜科
- ミドリトビハムシ Crepidodera japonica Baly
- ツブノミハムシ Aphthona perminuta Baly
- キバネマルノミハムシ Hemipyxis flavipennis (Baly)
- ルリチビカミナリハムシ Pgloblinia berberii (Ohno)
- トゲハムシ亜科
- クロルリトゲハムシ Rhadinosa nigrocyanea Motschulsky
- カメノコハムシ亜科
- アオカメノコハムシ Cassida rubiginosa Müller
- カメノコハムシ C. nebulosa Linnaeus
- カミキリムシ科
- コブヤハズカミキリ
- クロニセリンゴカミキリ
- アカハナカミキリ
2010.11.04現在,合わせて20種類が記録されています。
水生昆虫相(成虫も含む)
- カゲロウ目(1科1属2種)
- トビイロカゲロウ科
- ウェストントビイロカゲロウ[南会津町側入口付近の水たまりからの流れ出し,湿原内の流水域]
- トゲトビイロカゲロウ[湿原内の流水域]
- トンボ目(6科7属8種)
- カワトンボ科
- ニホンカワトンボ(オオカワトンボ)(成虫のみ)
- サナエトンボ科
- モイワサナエ
- ダビドサナエ属の一種[湿原内の流水域]おそらくモイワサナエ(サナエトンボ科で唯一成虫を確認し,多数が生息しているため)
- オニヤンマ科
- オニヤンマ[南会津町側入口付近の水たまりからの流れ出し]
- ヤンマ科
- サラサヤンマ(成虫のみ)
- ルリボシヤンマ[湿原内の水たまり,乾燥路脇の止水域]
- エゾトンボ科
- エゾトンボ(羽化殻)
- タカネトンボ[乾燥路脇の止水域,南会津町側入口付近の水たまり]
- トンボ科
- アキアカネ(成虫のみ)
- カワゲラ目(3科4属4種以上)
- オナシカワゲラ科
- オナシカワゲラ属の一種[南会津町側入口付近の水たまりからの流れ出し,湿原内の流水・止水域]【成虫で判断する限り,複数種が含まれていると思われる】
- ユビオナシカワゲラ属の一種[南会津町側入口付近の水たまりからの流れ出し]
- クロカワゲラ科(成虫)
- コバネクロカワゲラの近縁種[南会津町側入口付近]【コバネクロカワゲラ(微翅)よりもさらに翅が短いので,おそらくは別種】
- ホソカワゲラ科(成虫)
- モンホソカワゲラ[湿原内の植物上]
- カメムシ目(2科5属6種)
- アメンボ科(すべて成虫)
- アメンボ[湿原内の止水域]
- ヤスマツアメンボ[湿原内の止水域,乾燥路の水たまり]
- エゾコセアカアメンボ[湿原内の止水域]③
- ヒメアメンボ[南会津町側入口付近の水たまり,湿原内の止水域]
- シマアメンボ[湿原内の流水域]
- マツモムシ科
- マツモムシ科の属不明種[湿原内の止水]・・・幼虫のため同定不可
- ヘビトンボ目(1科1属1種)
- センブリ科
- クロセンブリ[湿原内の流水・止水域,成虫は湿原内の植物上]
- トビケラ目(4科6属6種)
- トビケラ科
- ゴマフトビケラ[湿原内の止水域,成虫も湿原内]
- アミメトビケラ属の一種[乾燥路の水たまり]
- エグリトビケラ科
- ウルマートビイロトビケラ or トビイロトビケラ[湿原内の止水域]幼虫では同定不可
- スジトビケラ属の一種[南会津町側入口付近の水たまり]幼虫では同定不可であるが,おそらくエグリトビケラ
- イワトビケラ科
- ミヤマイワトビケラ属の一種・・・幼虫では同定不可
- カクツツトビケラ科
- ツダカクツツトビケラ[南会津町側入口付近の水たまりからの流れ出し]
- コウチュウ目(4科8属9種)
- ゲンゴロウ科(すべて成虫)
- チビゲンゴロウ[乾燥路上の水たまり]
- クロマメゲンゴロウ[南会津町側入口付近の水たまり]湿原内の止水域からも1個体を得ているが,♀のため次種との区別不可
- ホソクロマメゲンゴロウ[南会津町側入口付近の水たまり]
- オオヒメゲンゴロウ[湿原内の水たまり]
- マメゲンゴロウ[乾燥路上の水たまり]
- ガムシ科(成虫)
- コマルガムシ[湿原内の流水・止水域,乾燥路上の水たまり]
- キベリヒラタガムシ[乾燥路上の水たまり]
- マルハナノミ科(成虫)
- チビマルハナノミ属の一種[湿原内の流水域]
- ヒメドロムシ科(成虫)
- ヒメハバビロドロムシ
- ハエ目(3科3属3種)
- ガガンボ科
- ガガンボ属の一種[湿原内の流水域]
- ブユ科
- ブユ科の属不明種[湿原内の流水域]
- ユスリカ科
- ユスリカ科の属不明種[南会津町側入口付近の水たまり]
2010.10.08現在,合わせて39種類が記録されています。文献記録としてはハッチョウトンボも記録されていますが,確認できませんでした。