再エネ技塾詳細
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監修によせて
2011年3月11日,マグニチュード9.0の大地震とそれに伴う津波によって,東北地方太平洋沿岸に大きな被害が発生した。中でも,福島県浜通り地方にあった東京電力福島第一原子力発電所は,地震によって商用電源が喪失し,さらに,15mを超える津波で補助電源装置が水没し,全電源を喪失した。このため稼働していた3機の原子炉や燃料プールの冷却機能を失い,燃料のメルトスルーなどを起こして大量の放射性物質が一般環境中に放出された。事故から2年が過ぎても毎時1千万Bqの放射性物質の放出が続いている。安全で,格安な大容量の発電システムとして利用してきた原子力発電は,一旦事故が起こると制御不能となり,残念にも先祖代々生活してきた古里さえも奪われる事故に発展することを経験することになった。
こうした福島の経験を無駄にしないためにも,社会の安全管理システムの構築や日常的なリスク管理システムシステムの構築が必要になっている。とりわけ,安全管理システムの一つとして,エネルギー供給システムでは,これまで主に地球温暖化対策として展開されてきた再生可能エネルギーの利用を,エネルギー供給システムの主役とする社会を構築することが重要な課題になっている。当然,再生可能エネルギーを主体とするエネルギー供給システムは,要求するだけ供給される電力供給システムではなく,必要なだけ供給する電力供給システムとして省エネ社会の構築も重要である。
再生可能エネルギーの発展は,二酸化炭素排出量の低減を通して地球環境問題の改善にも貢献し,極端現象の対策としても重要で,まさに安全な社会システムの構築に大きく貢献するものである。
一方,福島県は,明治32年以来,水力,火力,原子力による発電を通して,関東圏のエネルギー供給源として大きな役割を果たし,日本の産業振興に貢献してきた。当然,その結果としてエネルギー産業に従事する人口も多く,原子力発所電事故による操業停止や放射能環境汚染の影響による失業なども加わり,新たな産業振興と集積,雇用促進が重要な課題になっている。
こうした観点から再生可能エネルギーに関する産業集積,雇用促進を持続的に行うための人材育成システムを検討し,そのために必要なカリキュラムを監修することにした。ここに監修したカリキュラム内容は,人材育成の一つとして再生可能エネルギーに関する既存技術を利用し,事業を創出する人材「再生可能エネルギー事業プランナー」を育成することを目的としたものである。既存技術の普及促進は,新たな技術開発の環境整備にも重要で,再生可能エネルギー関連企業を活性化するためにも大きな役割を果たすものと考えている。
ここで育成する「再生可能エネルギー事業プランナー」は,再生可能エネルギー事業計画に必要なマネージメントを理解し,それぞれの再生可能エネルギー要素技術を概観し,実践的にプランニングを実習することで,再生可能エネルギー事業展開に必要な知識が具体的に理解できるように構成した。電気工学や材料工学など高度な専門的知識がなくても十分理解し,実践できるように工夫してある。多くの方が利用し,何よりも再生化エネルギー事業が進展することを期待したい。なお,日進月歩の再生可能エネルギー分野の政策論や技術論は,毎年見直し,必要な情報を追加していくことも検討している。
安全な社会システム構築に向け,再生可能エネルギー産業を発展させ,雇用を促進し,化石資源に頼らない社会を構築する一歩を歩むことが,福島の経験を人類史に残す大きな一歩になると確信している。ひとりでも多くの方の利用を期待したい。
なお,この人材育成カリキュラム内容の作成には,多くの方々の協力をいただきました。特に,筆者の方々の福島支援と文部科学省地域イノベーション戦略支援プログラム「再生可能エネルギー先駈けの地ふくしまイノベーション戦略推進地域」の支援を受けて実施したものである。記して感謝を申し上げます。
2013年3月11日
渡邊 明