Shota KAWABATA of 塘研究室

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Tsutsumi LABO. 塘研究室 since 2010-03-21

Shota KAWABATA

福島県会津地方南部における土壌性カニムシ相 ~天然記念物駒止湿原におけるカニムシ類の分布を中心として~

1. はじめに
 福島県は地理的特徴から,3 地方に区分されており,これら3 地方はそれぞれ気候要素も異なり,それに起因する生物相にも大きな違いが生じている。福島県における土壌性カニムシ類に関する研究は中通り地方と浜通り地方でしか行われておらず,会津地方に関する知見はない。会津地方は,それ以外の2 地方と異なり,日本海の影響を強く受ける気候地帯であるため,冬季の積雪量が多く,平均気温は低く,日照時間も短い。したがって,会津地方の土壌性カニムシ相は中通り地方や浜通り地方のそれとは大きく異なる可能性が高く,福島県における土壌性カニムシ相とその特徴を明らかにするためには会津地方における分布情報を得るための調査が必要不可欠である。そこで本研究では,会津地方における土壌性カニムシ類の分布情報を蓄積することを目的として,会津地方南部の土壌性カニムシ相調査を実施した。

2. 調査地及び調査方法
 調査は国の天然記念物である駒止湿原を中心に,田代山,帝釈山,会津駒ヶ岳など会津地方南部の数か所で,2009 年11 月から2010 年10 月までの期間に実施した。カニムシ類の採集は,ツルグレン・ファネルによる抽出法と「ふるい」を用いたシフティング法を併用して行った。

3. 結果及び考察
 本研究における調査によって会津地方南部からは合計2 科5 属7 種の土壌性カニムシ類が記録された。この中のキイロコケカニムシとヤマメクラツチカニムシは中通り地方と浜通り地方からは未記録のものであった。本研究の結果を加えると,現在までに福島県において記録された土壌性カニムシ類の種類数は3 科7 属14 種1 亜種となる。
 天然記念物である駒止湿原からは,2 科5 属6 種の土壌性カニムシ類,アカツノカニムシ,キイロコケカニムシ,チビカギカニムシ,タムラツチカニムシ,ヤマメクラツチカニムシ,イトウカブトツチカニムシが記録された。3 地方で共通して記録されたのはアカツノカニムシとイトウカブトツチカニムシで,これら2 種は垂直分布も広く,生息地の植生も様々であることから,環境に対する適応能力が非常に高いものと考えられた。キイロコケカニムシは本研究によって福島県から初めて記録されたが,キイロコケカニムシの既知の分布が九州南部であり,東北地方や北関東地方における土壌性カニムシ相にも含まれていないことから,本種はParobisium属の未記載種である可能性が高いものと思われた。今後Parobisium属については分類学的形質の再検討が必要であると考えられる。会津駒ヶ岳からはキタツチカニムシが記録され,本種の分布南限が更新された。
 本研究によって福島県から初めて記録されたヤマメクラツチカニムシはメクラツチカニムシの北方系亜種とされているが,中通り地方から記録されている原名亜種である南方系のメクラツチカニムシは会津地方南部からは記録されなかった。両亜種の分布は,気温などの気候的要素と森林土壌の保全状態によって決定される可能性が高いものと考えられた。メクラツチカニムシとヤマメクラツチカニムシの分布はこれまでのところ重ならないが,非常に安定した質的形質である腹部背板の毛序式が明確に異なることから,これらは亜種の関係ではなく,それぞれ別種であると思われる。福島県は両亜種が比較的近距離に分布しているので,今後さらなる調査を行い,両亜種が同所的に分布していることが確認できれば,これらが別種である可能性はさらに高まるものと考えられる。

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