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最終更新日:2023年11月09日

研究紹介                     Introduction

 内海研究室では、主に、イ ンターネット輻輳(ふくそう)制御に関する研究に取り組んでいる。 特に、従来型の発見的手法によるアプローチとは一線を画して、数学 分野と融合させたモデル解析に基づいたアプローチを採用することで、 インターネットを中心とするネットワークにおける通信性能(スループット・リ ンク利用率・遅延時間・公平性・パケット損失率)を飛躍的に改善する 輻輳制御アルゴリズムについて開発・普及を目指している。


研究業績                    Achievements

[解説論文]

[1] 内海 哲史, "インターネットにおけるふくそう制御アルゴリズム," 電子情報通信学会通信ソサイエティマガジン (IEICE B-plus), 2023年6月. <pdf version> <HTML version>

[国際会議論文]

[2] Satoshi Utsumi, and Go Hasegawa, "A New Congestion-Based Congestion Control for Low Latency and Low Packet Drop Rate," 2023 Fourteenth International Conference on Ubiquitous and Future Networks (ICUFN), July 2023.

[3] Satoshi Utsumi, and Go Hasegawa, "Improving Inter-Protocol Fairness Based on Estimated Behavior of Competing Flows," 2022 IFIP Networking Conference (IFIP Networking), June 2022.

[4] Satoshi Utsumi, and Go Hasegawa, "Refining Calculation Algorithm for Packet Pacing Rate of BBR," IEEE ComSoc International Communications Quality and Reliability (CQR) Workshop, May 2021.

[5] Asuka Ishii, Yuto Usuki, Kazushige Nakagawa, Salahuddin Muhammad Salim Zabir, Satoshi Utsumi, "A New Real-Time Rate Control Friendly with TCP Hybla over Heterogeneous Networks," IEEE Vehicular Technology Conference (VTC) Fall, Sept. 2019.

[6] Takumi Kurosaki, Yuki Hozumi, Yuto Usuki, Salahuddin Muhammad Salim Zabir, Satoshi Utsumi, "Evaluation of Skype Video Call with TCP Variants over Satellite Networks," IEEE Vehicular Technology Conference (VTC) Fall, Sept. 2019.

[7] Satoshi Utsumi, Salahuddin Muhammad Salim Zabir, "Utilization-based Congestion Control: Improvement of Friendliness with TCP over Wireless Links," IEEE International Conference on Advanced Information Networking and Applications (AINA), Mar. 2012.

[8] Satoshi Utsumi, Salahuddin Muhammad Salim Zabir, Norio Shiratori, "An Efficient Approach to Improve TCP Performance over Wireless Networks," EurAsia-ICT, Oct. 2002.

[学術誌論文]

[9] Satoshi Utsumi, Salahuddin Muhammad Salim Zabir, Yuto Usuki, Seisho Takeda, Norio Shiratori, Yasushi Kato, Jeyeon Kim, "A new analytical model of TCP Hybla for satellite IP networks," Journal of Network and Computer Applications (Elsevier), Dec. 2018 [IF: 8.7].

[10] Satoshi Utsumi, Salahuddin Muhammad Salim Zabir, and Sumet Prabhavat, "A New Explicit Congestion Notification Scheme for Satellite IP Networks," Journal of Network and Computer Applications (Elsevier), Nov. 2016 [IF: 8.7].

[11] Satoshi Utsumi, and Salahuddin Muhammad Salim Zabir, "A New High-Performance TCP Friendly Congestion Control over Wireless Networks," Journal of Network and Computer Applications (Elsevier), May 2014 [IF: 8.7].

[12] Satoshi Utsumi, Salahuddin Muhammad Salim Zabir, and Norio Shiratori, "TCP-Cherry for Satellite IP Networks: Analytical Model and Performance Evaluation," Computer Communications (Elsevier), July 2009 [IF: 6].

[13] Satoshi Utsumi, Salahuddin Muhammad Salim Zabir, and Norio Shiratori, "TCP-Cherry: A New Approach for TCP Congestion Control over Satellite IP Networks," Computer Communications (Elsevier), June 2008 [IF: 6].

研究                        Research

研究課題1: 低遅延・ハイスループット輻輳制御に関する研究

研究課題1

 2009年頃から、インターネット では、Bufferbloat問題と呼ばれるネットワークの回線(リンク)においてバッ ファリングされるパケット待ち行列が肥大化することで、バッファリング遅延 が極端に大きくなり、ネットワークアプリケーションのリアルタイム性に悪影 響を与える輻輳現象が問題視されている。この問題の背景には、メモリ価格が 低下したことで、交換機(ルータ・スイッチなど)に大容量のバッファが搭載 されてきていることがある。 Bufferbloat問題は、ロスベース輻輳制御と呼ば れる現在主流の輻輳制御手法が、深刻な輻輳を示すバッファあふれによるパケッ トロスを検出するまでパケット送信速度を上げつづけることに起因する。2016 年米Google社が発表したBBR (Bottleneck Bandwidth and Round-trip propagation time)などの輻輳制御手法は、往復遅延時間などの遅延時間を観 測しながら軽度な輻輳を検出し、パケット送信速度を調整する遅延ベース輻輳 制御に位置付けられ、Bufferbloat問題を解決する技術として期待されている。 しかし、現在のバージョンのBBRには、以下の重大な問題がある。

【バッファリング遅延増大の問題】ボトルネックリンクにおいて、遅延ベース 輻輳制御である複数のBBRフローが共存するとき、バッファリング遅延を最小化 できていない。

 これは、BBRフローがボトルネックリンクに関するパラメータ (リンク容量・利用可能帯域)と通信経路に関するパラメータ(往復伝搬遅延 時間)を正確に見積もれていないことが原因である。本研究課題では、高性能 (低遅延・ハイスループット)な遅延ベース輻輳制御手法を開発して、インター ネットにおけるBufferbloat問題を回避し、リアルタイム性が要求されるネット ワークアプリケーションをいつでも快適に利用できる環境を提供することが目 標となる。

研究課題2: 異種輻輳制御のスループット公平性に関する研究

研究課題2

 2016年9月Neal Cardwell(米 Google社)らによって、BBR(Bottleneck Bandwidth and Round-trip propagation time)が発表された。BBRはスループットを最大化し、バッファ リング遅延を最小化するインターネット輻輳制御である。BBR は、インター ネットのボトルネックリンクにおいてバッファリング遅延が継続的に大きく なるBufferbloat問題を解決する輻輳制御として期待されている。しかし、 BBRが、これまで広く普及しているCUBICなどの従来型のロスベース輻輳制御 方式と競合するとき、特に、バッファが深いボトルネックリンクで競合する とき、BBRはロスベース輻輳制御にスループットで劣ってしまうと言う欠点が ある。本研究課題では、スループットを最大化し、バッファリング遅延を最 小化する輻輳制御である遅延ベース輻輳制御について、CUBICなどのロスベー ス輻輳制御と競合するときの数理モデルを明らかにすることによって、スルー プットで劣ってしまうと言う問題を根本的に解決することを目的とする。ま た、その数理モデルに基づく新しい遅延に基づく輻輳制御アルゴリズムを提 案・性能評価することも目的となる。

研究課題3: 衛星インターネットにおける輻輳制御に関する研究

研究課題3

 東日本大震災や熊本地震では、 地震・津波被害により情報通信インフラにも甚大な被害が生じた。被害状況 は地域によって異なるが、甚大な被害が発生した地域では固定電話/携帯電話、 防災行政無線といった重要インフラそのものに被害が発生し、臨時に予備機 材が用意されるまでの数週間にわたる期間は通信サービスが利用できない状 況が続いた。その結果として、被災者支援(孤立地域の支援、傷病人等の救 護、避難所への救援物資の手配等)の対応が困難な状況が発生した。このこ とから、大規模な災害が発生した場合であっても、地域住民の安心・安全確 保に向けた必要な手段を講じるために、情報連携の仕組みの確立が重要とな る。実際、スマートフォンなどによるインターネット回線を用いた通信は基 地局の電源が保持できている限りにおいては電話網に対して安定した通信を 確保できていた。本研究課題の目的は、大規模災害が発生した場合であって も、地域住民の安心・安全確保に向けた必要な手段を講じる手段として、衛 星インターネットを利用し、特に被災者が親族らと情報交換をできるような 環境の最適性について、情報科学と数学の立場から評価を与え、その環境を 改善することにある。特に、6G以降での展開が期待される衛星インターネッ トにおけるリアルタイム通信の性能を向上させる手法について、情報科学的・ 数学的な観点から考察する。本研究の特色・独創的な点は、4次方程式(5次 以上の高次方程式では、一般解がないことが知られている)に基づく衛星イ ンターネットにおけるリアルタイム通信輻輳制御アルゴリズムを提案・評価 する点にある。特に、衛星インターネットにおけるリアルタイム通信を実現 するための輻輳制御についての4次方程式の解の特徴付けをし、その解を高速 に求められるようにすることにより、衛星インターネットにおける高速大容 量リアルタイム通信を実現する。

研究課題4: 低消費電力指向輻輳制御に関する研究

研究課題4

 ICT機器の省エネ化が進まなかっ たと仮定すると、2025年におけるICT機器の消費電力量は、1500億kWh/年に増 加することが見込まれている。ICT機器による消費電力量のうち、通信インフ ラによるものは、約40%である。また、従来のインターネットは、インターネッ トオブシングス(IoT)へと拡張し、今後、膨大な電力を消費すると予想され ている。そのため、ネットワークの省電力化が喫緊の課題であり、省電力化 の研究が国内外で推進されている。本研究課題では、IoTネットワークの基盤 となる無線/衛星ネットワークにおいて、消費電力に対する性能(スループッ ト)を最大化するための高性能超低消費電力通信方法を研究開発する。特に、 本研究課題では、消費電力対性能を最大化する省電力通信を実現するため、 待ち行列遅延時間を考慮しつつデータ・コンテンツごとにデータ送受信を行 う「超低消費電力遅延適応型ネットワーク制御」を提案し、性能と消費電力 について評価する。本研究課題の目的は、省電力通信を可能とするため、コ ンテンツごとにデータ送受信を行うネットワーク制御を実現することで、 Sleep機能を持つ回線の立ち上がり回数と、ルーティングテーブルへのアクセ スなど従来パケットごとに行ってきたノードでの処理回数を最小化し、IoTに おける消費電力対性能を従来比約2~10倍に改善することである。

研究課題5: ベンダOS・アプリにおける輻輳制御の調査

 現在、インターネットおける輻輳 制御として、ロスベース輻輳制御が主流となっている。ロスベース輻輳制御 とは、パケットロスの発生を輻輳状態の指標とし、パケットロスを検出した 際に輻輳制御を行う手法である。現在、ロスベース輻輳制御で主流であるの がCUBICであり、Linuxにおいては、バージョン2.6.19以降でデフォルトとなっ ている。パケットロスが起きるまでデータを送り続けるロスベース輻輳制御 では、積極的にバッファを埋め尽くすため、大きなバッファサイズを持つボ トルネックリンクにおいて、大きな遅延を発生させてしまう。遅延ベース輻 輳制御は遅延時間を輻輳状態の指標とするため、バッファが大きい場合でも、 大きな遅延は発生しない。今後、メモリの低価格化と通信機器の処理能力向 上により、バッファサイズがより大きくなると考えられるため、将来的に遅 延ベース輻輳制御を広く普及させる必要がある。遅延ベース輻輳制御を広く 普及させるにあたり、ロスベース輻輳制御フローと遅延ベース輻輳制御フロー の競合時におけるスループットの不公平性が問題となる。本研究課題では、 オープンソースでないWindows、iOS、MacOSにおけるCUBICフローやSkypeビデ オ輻輳制御の挙動、またパラメータの推定を行い、それらの輻輳制御のスルー プットを予測し、遅延ベース輻輳制御に応用する方法を開発する。