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  試験の音風景
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Koji Nagahata


archieves
 皆さんは「モーツァルトの40番」ってどんな曲か知っていますか? 知らないと答えたあなたには質問を替えましょう。定期試験の開始や終了を告げる音楽に聞き覚えがありますか? ─そうなんです。皆さんご存知の、あの合図に使われているメロディーこそが「モーツァルトの40番」なのです。
 では、皆さんはあのメロディーに対して、どのような感情を抱いていますか? なかには、昔からモーツァルトが大好きで、当然このメロディーも大好きだという人もいることでしょう。それに対して、このメロディーを聴くとテストのことを思い出してしまうという人もいるのではないでしょうか。極端な場合、聴くだけで胃が痛くなるという位強烈に、このメロディーとテストが結び付いてしまっている人がいるかもしれません。このようにメロディーによってテストが思い出されるような場合、このメロディーにはテストという意味が与えられたと言うことができるでしょう。
 モーツァルトがこれを作曲した時、このメロディーにそのような(あまりうれしくない)意味が与えられることを想定していたでしょうか。また、自分の作ったメロディーがそのような意味付けで聴かれていると知ったら、どのように思うでしょうか。
 一度ある音楽にある意味付けが行なわれてしまうと、その曲をその意味付けから離れて聴くことには困難が伴われます(お店で閉店時間でもないのに蛍の光がかかったら、おやって思うでしょ?)。ですから、あのメロディーにテストという意味を与えてしまった人は、一生この曲を楽しんで聴くことができないかもしれないのです。そうやって考えると、あの合図って、モーツァルトに対する冒涜だと思いませんか?
 以上、サウンドスケープ研究者が試験監督中に考えていた戯言でした。

(初出:吾稜ニュース(旧福島大学広報誌) 2000年秋号)




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