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永幡研究室では,サウンドスケープの視点から,音環境の望ましいあり方について研究しています.サウンドスケープとは,音環境を,騒音計等による計測だけで表わせるような単なる物理的状況として捉えるのではなく,音と人との係わり合いを重視し,その場に居合わせる人々の感じ方や思いまでをも含めた,多様な様相を持つ音の世界として捉えようという考え方です.
私たちの研究室がこのような視点から考える,福島の音環境の問題を1つ紹介しましょう.商店街などの商業地域では,路上に向け宣伝等が放送されることがあります.このような放送は,一義的には店舗等の宣伝として役立っているのでしょうし,視覚障害者に自分のいる場所を知るための目印として利用されることもあります.その一方で,この手の放送は騒音問題を引き起こすことがあり,視覚障害者が歩行の際に用いる,他の音の手がかりを消してしまうこともあります.
問題発生を防ぐために,福島県では拡声機使用基準として「音源直下の地点から10mの距離で,地上1.2mの点で最大70dB以下」という基準を策定しています.しかしながら,視覚障害者の方々にご協力いただいた私たちの実験では,耳の位置での放送の音量の最大値が68dBを超えると,他の音の手がかりをより重視している視覚障害者にとっては,街路を安全かつ安心には歩けなくなる可能性が高いことがわかっています.実は,福島県の拡声機使用基準は,日本一甘い基準です.この基準を守ったからといって,問題が発生しないといったようなものではありません.
問題解消のために,福島県当局には早急な拡声機使用基準の改訂を求め,各放送者には,基準を満たしているかのみを気にするのではなく,放送が問題を引き起こしていないか,常に細心の注意を払うことを求めたいと思います.
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