福島県におけるクロマメゲンゴロウとホソクロマメゲンゴロウの分布と生息環境
1.はじめに
ゲンゴロウ類は,生息環境の悪化で全国的に生息地や個体数を減らしつつあるものが多く知られている保全が必要な昆虫類の1つである。クロマメゲンゴロウPlatambus nakaneiとホソクロマメゲンゴロウP. optatusは,7都県のレッドデータブックに掲載されているゲンゴロウ類で,他のゲンゴロウ類があまり生息していないような林道脇や林内の落ち葉が堆積した浅い水たまりなどに生息している。これら2種は外部形態や生息環境が非常に類似しており,判別は雄交尾器の形態比較を除けば極めて困難である。現在,本州においてはホソクロマメゲンゴロウが広く分布しており,クロマメゲンゴロウは山地帯に点々と分布しているに過ぎないとされ,両種の混生地は福島県内の2ヵ所でしか確認されていない。
そこで本研究では,混生地がある福島県における両種のさらなる分布情報蓄積を目的として,福島県中通り地方北部を中心にクロマメゲンゴロウ類の採集調査を実施した。
2.調査地及び調査方法
2009年3月から2009年12月までの期間に,福島県中通り地方北部(伊達市,国見町,桑折町,飯舘村)を中心に100以上の地点で調査を実施した。両種の採集は,目合約1mmの水生昆虫稚魚すくい網や目合約3mmの水生昆虫調査用の手網を用いた。
3.結果及び考察
本研究における調査の結果,クロマメゲンゴロウが3地点,ホソクロマメゲンゴロウが24地点でそれぞれ確認された。ホソクロマメゲンゴロウの生息地は多く,垂直分布も標高100~1500mとかなり広範囲であることが明らかになった。一方,クロマメゲンゴロウの生息地は局所的で,垂直分布も標高500~650mの範囲であった。このように両種は生息地の標高に重なりがあり,少なくとも雄に関しては,両種の混生を確認することはできなかった。ただし,両種の扁平率(体幅/体高)の違いを用いて雌を同定した結果,クロマメゲンゴロウの生息地では1地点,ホソクロマメゲンゴロウの生息地では少なくとも4地点で両種が混生している可能性が示唆された。
両種はともに生息環境として,定常的に存在する枯渇しない水たまりを必要としている。ただし,クロマメゲンゴロウはホソクロマメゲンゴロウよりも年間を通して水温変化が少なく,かつ冷水を好む傾向が認められた。両種の生息環境の違いの有無や両種の競争関係の有無を明らかにするためには,両種の分布情報に加え,生息環境に関する様々なデータをさらに蓄積することが必要である。また,クロマメゲンゴロウ類を保全するためには,水の湧き出しなどに由来する定常的な水たまり,林内や日陰にある落ち葉が堆積した水たまりなどを維持することが必要である。
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