福島県の土壌性カニムシ類の分布と生息環境 〜福島県裏磐梯地域の土壌性カニムシ類を中心として〜
1.はじめに
福島県は地理的特徴から,浜通り地方,中通り地方,会津地方の3 つの地方に区分され,それぞれの地方は地理的特徴に起因する気候要素が異なり,それがそれぞれの地方の生物相に影響を与えている。土壌性カニムシ相については会津地方とそれ以外の2 つの地方との間で顕著な違いが認められるが(坂寄,1998;加藤・塘,2002;河端,2011;塘ら,2011),福島県内における土壌性カニムシ相調査は断片的であり,調査の空白地域が多数存在しているため,この違いが地理的特徴を反映した違いであるのか否かについては,さらなる分布情報を蓄積して検討する必要がある。また森林土壌以外の人為的撹乱を受けた場所での調査はほとんど行われておらず,そのような場所からはこれまで未記録であった新たな種が記録される可能性もある。さらに,土壌性カニムシ類については近年新たに記載された種もいくつか存在することから,福島県内の土壌性カニムシ類の2002 年以前の記録については再確認する必要がある。
そこで,本研究では福島県の土壌性カニムシ類のさらなる分布情報の蓄積と過去の生息情報の確認のため,県内各地で土壌性カニムシ相調査を実施した。その中でも特に裏磐梯地域では各種の分布や生息環境に関する特徴を明らかにすることを目的として,重点的に調査を実施した。
2.調査地及び調査方法
調査は2011 年4 月から12 月までの期間に裏磐梯地域,駒止湿原,阿武隈川源流域,矢の原湿原,相馬市などで実施した。カニムシ類の採集は,ツルグレン・ファネルによる抽出法と「ふるい」を用いたシフティング法を併用して行った。 採集したカニムシ類は,ホイヤー氏液を用いて永久プレパラート標本とし,生物顕微鏡を用いて種の同定を行った。
3.結果及び考察
裏磐梯地域における調査では14 の調査地点のうち12 の地点から2 科6 属12 種の土壌性カニムシ類が記録された。土壌性カニムシ類の種組成に注目すると大きく2 つのパターンに分けることができた。1 つはチビコケカニムシが記録された地点,もう1 つはチビコケカニムシを除く種類が記録された地点である。樹木伐採後の植生遷移の途上や,常に人為的な撹乱が生じている場所の土壌中に生息することが知られているチビコケカニムシは,1888 年の磐梯山の噴火の影響が見られる場所に分布が限定され,それ以外の土壌性カニムシ類は噴火の影響を受けていない場所に分布することが明らかとなった。
福島県内では土壌性のMundochthonius 属のカニムシ類として,メクラツチカニムシ,ヤマメクラツチカニムシ,イトウカブトツチカニムシの2 種1 亜種が記録されている。本研究では過去にメクラツチカニムシが記録された地域での再確認調査も含めてMundochthonius 属の土壌性カニムシ類の分布調査を行ったが,ヤマメクラツチカニムシとイトウカブトツチカニムシの2 種しか確認できなかった。これら2 種の分布に関する特徴から判断すると,これまでメクラツチカニムシと同定されたものはヤマメクラツチカニムシかイトウカブトツチカニムシの誤同定である可能性が高い。
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