ふくしま県民の森「フォレストパークあだたら」の人工池にホソミオツネントンボを導入するための基礎的研究
1. はじめに
ふくしま県民の森「フォレストパークあだたら」では6 科14 属18 種のトンボ類が記録されているが,この中で幼虫が止水域を生息環境とするもののうち,6 種類の幼虫は生息が確認されていない。そこで本研究では,フォレストパークから記録されたトンボ類のうち,幼虫が未確認の種の生息場所発見を目的として,フォレストパーク内の砂防ダム池と芝生公園の人工池で動物相調査を実施した。また,調査地に飛来するトンボ類の成虫の調査も合わせて実施した結果,人工池にはホソミオツネントンボが多数飛来するものの,池内には幼虫が生息しないことが明らかになった。そこで本研究では,ホソミオツネントンボの産卵に関する環境条件を明らかにするための基礎調査も実施した。
2. 調査方法
砂防ダム池と人工池の動物相調査は,2009 年の秋に1 回,2010 年の春と秋に2 回の計3 回実施し,それぞれの池内の動物を水生昆虫採集用ネットを用いて採集し,同定した。飛来するトンボ類は,捕虫網を用いて捕獲し,同定した。ホソミオツネントンボの産卵条件については,人工池内外の様々な場所にホソミオツネントンボの産卵基質となるガマを入れたバケツを2010 年6 月17 日から7 月2 日までの16 日間設置し,各バケツ内の幼虫の個体数を調べることによって検討した。
3. 結果及び考察
動物相調査の結果,砂防ダム池からは58 種類,人工池からは48 種類もの動物が記録された。また,トンボ類については,タカネトンボ,オオルリボシヤンマ,コオニヤンマの幼虫とタカネトンボ,ショウジョウトンボ,ホソミオツネントンボ,ハグロトンボ,アオイトトンボの成虫がそれぞれ新たに確認された。ホソミオツネントンボの産卵条件を検討した結果,ホソミオツネントンボの産卵条件としては,産卵基質となる抽水植物が池内に存在することが重要であることが明らかになった。この結果を受けて,ホソミオツネントンボを人工池に導入するための試みとして,フォレストパーク内で生育しているガマを人工池内に設置した。なお,池内にある産卵基質の位置や日当たりについては特別な選択性はないものと考えられた。
人工池にホソミオツネントンボを導入するに当たっては,導入する際のガマの移植方法,設置方法,そして導入後の人工池の管理方法について,人工池内の生態系や動物相に負の影響が生じないよう,様々な検討を重ねた。特に,捕食者であるホソミオツネントンボの幼虫を人工池に導入する場合,人工池内の既存の食物網に与える影響を考慮する必要がある。本研究における人工池の動物相調査の結果から考えると,人工池内の食物網への影響は小さいものと思われるが,予期せぬ事態が今後生じる可能性はあり得るため,人工池の定期的なモニタリングは必要不可欠である。数年後,人工池の動物相が現在と変わることなく,人工池でホソミオツネントンボが発生するようになれば,本研究を出発点とした人工池へのホソミオツネントンボ導入は,フォレストパークの人工池の動物相をさらに豊かにするための貴重なモデル研究になるものと思われる。
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