福島県会津地方におけるモンカゲロウ及びフタスジモンカゲロウの生活史 ~福島県中通り地方との比較~
1.はじめに
河川に生息する水生昆虫の羽化までに要する期間や発生回数は,それらが生息する河川の水温に大きく依存する。しばしば河川の流れの緩やかな場所に幼虫が優占するモンカゲロウ類は,生活史に関する知見が比較的豊富な水生昆虫の一つであり,フタスジモンカゲロウとトウヨウモンカゲロウは西日本と比べて北日本の方が羽化までに要する期間が長く,1年における発生回数が少ないことが知られている。一方,モンカゲロウの羽化までに要する期間や発生回数は,西日本と北日本の間で大きな違いがないことが知られているが,福島県中通り地方を流れる原瀬川のモンカゲロウの生活史は水温の影響を受けている可能性が指摘されている。そこで本研究では,福島県中通り地方よりも冬季の平均気温や日照時間が低く短い福島県会津地方に生息するモンカゲロウとフタスジモンカゲロウの生活史調査を行った。また,会津地方と中通り地方それぞれの河川におけるモンカゲロウの生活史の比較を行うことを目的として,中通り地方を流れる河川においても,会津地方におけるモンカゲロウの調査と同日に,同じ調査方法によって,モンカゲロウの生活史調査を行った。
2.調査地及び調査方法
モンカゲロウの生活史調査は,2007年12月から2008年12月までの期間に会津地方においては阿賀川,中通り地方においては山ノ入川と原瀬川の2河川でそれぞれ行い,フタスジモンカゲロウの生活史調査は,会津地方の氷玉川で行った。モンカゲロウ類の幼虫の採集は,目合約3mmの手網を用いて行い,3人でランダムに約50個体を採集するか,50個体未満であっても約1時間経過した時点で採集を終えるようにした
3.結果及び考察
阿賀川に生息するモンカゲロウは,1年を通して河川から幼虫が採集できない時期はなく,幼虫の体長別頻度分布の経月変化や羽化個体の確認時期から考えると,羽化期間は5月下旬から6月中旬までで,基本的に1年で羽化するが,羽化までに1年以上を必要とする個体も存在するものと考えられる。羽化までに1年以上を必要とする個体の割合は,山ノ入川の個体群と比べると大きいことが明らかとなった。この違いはモンカゲロウの餌資源でもある底質に起因している可能性が高いものと思われる。また,羽化までに1年以上を必要とすることが知られている原瀬川に生息する個体群には,1年を通して常に多くの個体を採集することができること,小型個体の出現時期が一定しないことなど,阿賀川の個体群とは大きく異なる特徴が認められた。両河川の積算水温の比較から,モンカゲロウが1年で羽化するために必要な積算水温の下限は3900日度/年から4500日度/年の間にあるものと考えられた。
氷玉川に生息するフタスジモンカゲロウは,幼虫の体長別頻度分布の経月変化,幼虫の成長量と水温の関係,羽化個体の出現時期から考えると,羽化期間は6月下旬から8月下旬までであり,羽化までに1年以上を必要とするものと考えられる。
斎藤広行・塘 忠顕(2009)福島県会津美里町(会津地方)におけるモンカゲロウEphemera strigata Eatonの生活史(カゲロウ目:モンカゲロウ科) ー福島県二本松市(中通り地方)における生活史との比較ー,福島生物,(52): 21-35.
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